留ブラの光と影 - その1『2009年12月9日・家宅捜索』
留之助ブラスターPROの年内先行発売の約束も果たし、発送作業もヤマを越えたいま、そろそろ語りはじめてもいいだろう。
PRO開発に費やした1年は、同時に高山警察署でOGに関する幾度かの事情聴取を受け、送検用の書類が出来上がるまでの1年でもあった。

「中子真治さんだね。留之助ブラスター銃を造った責任者の中子さんだよね。銃砲刀剣類所持等取締法違反被疑事件につき、いまより家宅捜索させてもらうよ。これが裁判所発行の令状だから」
玄関から表に出るよう促され、A4サイズの白い紙を目の前にかざされながらそう告げられると、直後、6名の捜査員が下呂温泉の別荘に上がり込んだ。
2009年12月9日の吐く息も白くなる早朝のことだった。
マルシン工業さんに留ブラPROの製造を請け負っていただけることが決まり大喜びした日(こちらの記事を参照)の翌朝、文字通り寝耳に水を浴びせられ、一気に眠気が吹っ飛んだ。
と、同時に腹を括ったのだった。
別荘には昭和46年規制前のいまでは模造銃に指定されている黒染の金属製モデルガンが10数挺、普通に目に付く場所に置いてあり、必ずや見つかってしまうだろう。
かつて実家で父の遺品整理をした際、土蔵の奥から油紙に包まれ出てきた未発火で傷ひとつない名銃の数々。
まるで時間が止まったか、40年前の懐かしい時代からタイムワープでもしてきたかと思わせる新品然としたMGC最初期のコルト・ガバメントやルガーP08、中田商店のブローニング・ハイパワーやハドソンの南部14年式が、別の段ボール箱にきれいに詰められたオリジナル・パッケージとともに見つかり、以来、オモチャが大好きだった父(ムカシモチャのカテゴリで度々紹介してきた)の形見として、罪の意識をこれっぽちも感じることなく大事に保管してきた。
その何にも代え難い特別な宝物が没収されてしまうのだ。
口惜しくてならない。

玄関を入ってすぐ右隣の書斎で捜索の主任とおぼしき刑事から、彼の言葉を借りるなら“ガサ入れ”について、また留之助ブラスター銃を今後も作り続けるつもりなら、この機会にそれが合法かどうかシロクロはっきりさせておいた方がいいだろうと説明を受けた。
それは岐阜県警と高山警察署の捜査員12名による合同の家宅捜索だった。
飛騨高山の留之助商店の3階を住居代わりに使う榎本店長に、店の外で待機している6名の別動隊を速やかに建物に入れるよう電話させられた。
昨夜、店長の運転で川口市のマルシン工業さんから5時間かけて下呂温泉の別荘へと送ってもらい、彼はさらに1時間先の店舗兼住居に帰宅していた。
店長には一切の隠し立てをせず、店に保管してある唯一の完成モデルのほか、警察が求めるすべての関係資料を提出するよう念を押した。
唯一の完成モデルとは店主所有のOGの初号を使い、島田英承さんが仕上げたAPの試作品で、後日、本番のAPと同じアルミ製グリップフレームに付け替てもらうつもりでいたもうひとつの宝物だった。
主任刑事からは、捜索中は電話等で外部との接触を図ることを固く禁じられ、常に目の届く場所にいるよう命じられた。
その間、他の捜査員は書斎の机の引出の中を見たり、また別の捜査員は棚に飾ってあるOFF WORLDのブラスターやTHEUNCLEGUN.COMのプラスチック・キャスト製アンクルカービンに磁石を近づけたりしていた。

家宅捜索は1階の書斎から書庫を巡り、2階のリビングやキッチン、和室や納戸などをざっと見たあと、3階の主寝室へと移った。
その奥のウォーキング・クローゼットには、シリコン・オイルを吹き、ビニール袋で包み、オリジナル・パッケージに収めた父の遺品のモデルガンがあり、案の定、最初にそこへ足を踏み入れた若い捜査員にあっさり見つけられてしまった。
にわかに場が色めいた。
捜査員全員がそこに集まった。
主任刑事が携帯電話で連絡をとりはじめた。
「こちらに留之助ブラスター銃はありませんが、模造拳銃様のものを10数点押さえました」
売買したわけでもなければ、改造しているのでもない、単に父の形見だし、きちんと合法処理するから没収だけは勘弁してほしいと、鉄壁の刑事を相手に無意味な嘆願をする自分が情けなかった。
クローゼットの床にモデルガンを1挺ずつ並べる捜査員。
メモ用紙に番号を振り、それを横に置いて撮影する別の者。
棚の上の木箱に、中学生だったころボロボロになるまで遊び尽くし、けれどなかなか棄てられずにいたヒューブレー・オートマチックやマテルのスナッブノーズやいくつかのモデルガンの残骸を見つけ、組み立てようとする人もいた。
実際、先端のサイレンサー状シリンダーがもげ落ち、機関部も壊れ、バレルとスライドとフレームがバラバラになっていたMGCのターゲットモデルを器用に組み上げ、それも押収品のひとつに加えられた。
別荘では最後にiPhoneが押収された。

下呂温泉にある店主経営の別の小さな会社の事務所や建物などは形式的な捜索で終わり、社長が事件の被疑者だと気付く従業員はひとりとしていなかった。
それは自家用車の助手席に主任刑事を乗せて移動した先の、高山市で妻が営むセレクトショップ最上階の自宅を捜索された時も同じだった。
捜査員は半分に減り、けっして第三者に気付かれぬよう配慮された。
もちろん怪しい物は何も出てこなかった。
車中では主任刑事から半年前に告発を受け調査してきたこと、その一環で別の刑事が客を装い入場料を払って留之助商店を下見したこともあると教えられた。
また自分は未見だが部下に『ブレードランナー』を観させたところ、虜になる人がいてもおかしくない、さすがによく出来た映画だと感心していた、とも。
きのうから36時間態勢で若手を各所に張り込ませ、店主と店長が帰宅するのを確認して家宅捜索したと聞かされた時は、「ご苦労をおかけしてすみません」と冗談で返す心のゆとりも戻っていた。
早朝からの家宅捜索は終わり、1時間後に高山警察署の生活安全課へ出頭するよう告げられ、ひとまず解放されたのだった。

ひとりになると、突然、様々な思いが脳裏をかすめた。
OGが合法かどうかを見極めるためだけに、このような物々しい布陣が敷かれたとは考えにくい。
模擬銃や真正銃でも出てきたら大当たり、最低でも模造銃所持で挙げることができると分かっていての家宅捜索だったのではないか。
主寝室の奥のウォーキング・クローゼットに目的の物があると、裏がとれていたのかもしれない。
そこへ行き着くまで、別の部屋で無駄に時間を過ごすことはなかった。
捜査員の足取りは確かに3階を目指していたように思えた。
告発とは都合のいい言葉だが、ようは店主が黒染の金属製モデルガンを所持していることを知る、ごく少数の知人のうちの、店主に私怨を抱く誰かにチクられた気がしてきた。
しかしそんな邪推にエネルギーを割くゆとりはない。
いまはOGの購入者に迷惑が及んだり、APの納品やPROの開発にブレーキがかることこそ問題なのだ。
空腹なのに食欲が湧かない、朝から何も口にしないまま複雑な気持ちを引きずり、定刻通り高山警察署の門をくぐった。
生活安全課は奥の階段を登った3階にあった。(つづく)
a0077842_3204498.jpg

たぶん捜査員が使用し、忘れていったマグネット。後日、クローゼットの床で見つけた。亜鉛ダイカスト製のモデルガンに磁石は引っ付かないが、もしこのスマイルマークが貼り付いて離れないような銃があったりすると、その場で逮捕となりかねない。


by tomenosuke_2006 | 2011-01-02 23:59 | 留之助ブラスター
<< ムクのチェ・トルーパー、破格で... 2011年 賀状。 >>