ケビンが紹介してくれたもうひとりのケビンのこと。
話は9月4日の記事で触れた映画『モンスター・イン・ザ・クローゼット/暗闇の悪魔』が製作された1985年にさかのぼる。
例の下アゴがデレッと垂れ下がった男色モンスターの着ぐるみを作るケビン・ブレナンの仕事場を訪ねたときのことだ。
正確を記するなら、そこはケビンの大先輩であり、モンスターの内装メカニズム=アニマトロニクスをデザインしたダグ・ベズウィックの自宅ガレージだった。
ダグとは、長年リック・ベイカーを影で支えてきた天才マシーニスト。
寡黙で、人前に出たがらず、コツコツと仕事をするタイプの人。
リックがアカデミー賞を受賞した『狼男アメリカン』(1981)や『グレイストーク』(1983)の作り物に内装されていたほとんどのメカはダグの手作りだし、スタン・ウィンストンに依頼されジェームス・キャメロンのスケッチを元に『ターミネーター』(1984)のエンドスケルトンのコンセプト・マケット兼アニメーション・モデルを作ったのも彼だった。
留之助商店に飾ってある現存する唯一のフルスケール・T1は、そもそもダグのエンスケの拡大版だったのである。
モンスター・イン・ザ・クローゼットはそんなダグとケビンが請け負った仕事で、ダグのガレージではモンスターを演じるスタントマンの全身を型どりする作業が進行中だった。
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むかし撮ったこんな写真が出てきた。
拡大して見てください。黒い上着がケビン、白のTシャツがダグ。


ケビンが身長2メートル以上はある痩身のスタントマンを紹介してくれた。
「ぼくと同じファーストネームのケビン・ピーター・ホール」
面と向かうと、ちょうど店主の目線は彼のヘソのあたり。
とにかく眼前に立ちはだかる電信柱人間といったところ。
「本業はダンサーなんだけど、身長がありすぎてね、なかなかダンスの仕事にありつけず、かわりに映画やイベントでいろんなヌイグルミを着てるんだ」と、もうひとりのケビン。
ひと目でゲイとわかる物腰柔らかな人物だった。
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ケビン・ピーター・ホールを型どりして作ったライフキャストの上に、
粘土を盛ってモンスターを彫刻するケビン(左)と、
それを見守るパートナーのダグ(右)。
モノクロ写真はモンスターの口の中から出てくるもう一匹のモンスターの彫刻。
エイリアンのリップオフだけれど、デザインは素晴らしい。

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モンスターの着ぐるみが完成して、スタントマンのケビンが試着。
左上の長髪の男子がスペシャル・メークアップ・アーティストのケビン。
身長は185センチぐらいだったから、モンスターのデカさも想像できる。
モンスターの口の中にもうひとりのケビンの笑顔が覗く。


その後も何度か仕事場や撮影現場でケビン・ピーター・ホールと会ったけれど、脚本家兼監督のボブ・ダーリン立ち会いのもと、着ぐるみのアクション・チェックをした日のことは忘れられない。
そこにはいつものやさしげなスタントマンの姿はなく、モンスターに変身した迫力満点の大男がいた。
彼はモンスターという化けの皮の中でのみ男に返るのか、男を演じるのを楽しんでいるのか、エイリアンと闘わせてみたいと思わせる荒々しくどう猛な身振り手振りには圧倒された。
けれど、「このモンスターはね、男好きな一風変わったキャラクターなんだから、もう少しそこらへんを意識して演じてもらわないと困る」と注文をつける監督の言葉に、つい吹き出しそうになってしまったのだった。
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その後、店主が帰国して間もなく、ケビン・ピーター・ホールの活躍をケビン・ブレナンのクリスマスカードで知らされた。
『プレデター』(1987年/上)ではそのタイトルロールを、同じ年に公開された『ハリーとヘンダーソン一家』でもハリーという名のビッグフットを演じ、ともに映画は大ヒット。
しかもプレデターは続編が、ハリーはTVシリーズ化されて、押しも押されもしないハリウッド一のモンスター俳優になったのだ。
ちょうど『プレデター2』(1991年)が公開された年、ハリウッドで数年ぶりにケビン・ブレナンと会い、悲報に接した。
あの長身の彼がつい最近、エイズでこの世を去ったという。
放送中のTVシリーズのハリーはしばらく代役で撮影されたけれど、中途で製作が打ち切られたとも。
製作陣も共演者たちでさえ、ケビンが演じたハリーそのものがこの世を去ったような虚脱感に見舞われ、撮影を続行することができなくなってしまったからだった。
もはやケビンは単なる着ぐるみ役者ではなかったのだ。

留之助商店の奥には『プレデター2』でケビン・ピーター・ホールが着用した着ぐるみを展示用に改造したあのモンスターが仁王立ちしている。
店主はその恐ろしげな怪物を見上げるたび、それとはまったく正反対の彼のやさしい笑顔をはっきりと思い出すのだった。



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by tomenosuke_2006 | 2007-09-08 23:52 | TV・映画・ビデオ
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