スタン・ウィンストン、逝く。
店主が知るスタンはいつも自信満々だった。
1984年、アメリカで低予算映画『ターミネーター』が封切られ、ものすごい勢いで興行記録を更新していたころ、メーキング本『THE ターミネーター ALBUM』の取材のため、ふたりの編集仲間とともにスタンの工房を訪ねた。
ひとりは現在、映画雑誌FLIXの編集長をしている松下元綱君、もうひとりは当時CINEFEX等に寄稿していたフリーランスのライター、アダム・アイゼンバーグ。
本のハイライトのジェームス・キャメロン監督へのインタビューを店主が受け持つ代わりに、スタンのインタビューはふたりにまかせ、横で様子を見物することにした。
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立て板に水とはこのことだろう、アダムの「どんな経緯でターミネーターに参加することになったのか」というたった1度の質問に対しておよそ1時間、スタンはよどみなく語り通した。
ダミヘッドやダミの腕を作る細々とした仕事のために雇われただけだったが、エンドスケルトンの登場シーンすべてを人形アニメで撮影しようとしていた監督にフルスケールの精巧なモデルの使用を提案したこと、それが映画に圧倒的な迫力をもたらすことになったと力説した。
ターミネーターというチャンスをモノにして、ハリウッドでの揺るぎない成功と新しいキャリアの始まりを実感している男の饒舌だった。
スタンの言葉に頷くだけのちょっと退屈なインタビューのせいだと思う、連日の突貫取材と徹夜の作業で寝不足の松下君が、こともあろうにスタンの目の前で居眠りをはじめたのだ。
スタンがこちらを向いてひとこと、「おやおや、私のエキサイティングな経験談のどこがそんなにつまらないのかなぁ」。
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店主が知るスタンはいつも上機嫌だった。
あのとき38才だった新進気鋭のSFXアーティストは、6年のあいだに『エイリアン2』(1986)と『プレデター』(1987)でアカデミー賞視覚効果賞を2度も受賞し、『シザーハンズ』(1990) でもアカデミーのメイクアップ賞にノミネートされて、押しも押されもしないハリウッドSFX界の第一人者に大成していた。
1991年に東京と大阪で開催された映画のイベント(下の画像)のために数々の創作物を貸し出してくれたスタンのこと、その作品が店主の元に残されたいきさつなどは、2006年7月13日の記事と7月16日の記事で詳述したとおりである。
そのイベントで日本に1週間滞在したスタンとは、ほぼ毎日いっしょだった。
新宿のホテルでの歓迎レセプションにはじまり、夜のはとバス・ツアー、東海道新幹線から高山線に乗り継いで来た下呂温泉での豪遊、そして飛騨高山の旅、どれだけ「ワンダフル」という言葉を耳にしたことか。
下呂温泉からクルマで高山へ向かう途中、コーヒーショップ緑の館に寄ったときもそうだった。
シナモンと蜂蜜をたっぷり塗ったパン生地製の器に角切りのサンドイッチ・トーストをてんこ盛りにした名物スナック、リングトースト・サンドイッチをご馳走すると、よほど口に合ったのだろう、店のオーナーに「ハリウッドに2号店を出さないか、その気ならいくらでも出資させてもらう」と精一杯の賛辞を呈した。
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店主が知るスタンはいつも困難を楽しんでいた。
1992年だったか、LA旅行のついでに彼の工房を訪ねると『ジュラシック・パーク』の恐竜マケットが飾られたレセプション・ルームに通され、スカルプティング(彫刻)ショップやマシン・ショップを案内してくれたあと、奥のいちばん広い作業場に鎮座する粘土で仕上げられたT-REXのフルスケールの頭を指さしながら語りはじめた。
当初はCGのカットとカットをつなぐだけの一瞬の出番だったが、スピルバーグ監督がライブアクションの現場で恐竜たちに直接演技をつけたいと思っているのが分かり、要求通りに動くフルスケールの賢いT-REXが作れないわけではないと耳打ちしたこと、その結果、大幅な製作変更となり1日12時間の労働が16時間に延長され、自分は19時間以上働き通しているのだと言う、疲れひとつ感じさせない元気な声で。
「ターミネーターの頃を思い出してワクワクしているんだよ。あの時は人形アニメを補うために精巧なフルスケール・モデルを提案し、いまはCGの向こうを張る巨大なT-REXを作っている。きっと今度も私のクリエーションは映画の大きなインパクトになるはずだ」。

店主は絶好調のスタンしか知らない。
そんな人が多発性骨髄腫を患い、近親者以外にはひた隠しにして7年間も闘病生活を続けていたとは。
6月15日、LAで彼は息を引き取った、享年62才はあまりにも若すぎる。
17年前の下呂温泉でスタンから託された数々の創作物が、まさか遺品になるとは思ってもいなかった。
心から故人のご冥福を祈ります。
ここがLAなら墓前にリングトースト・サンドイッチを供えたい。
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by tomenosuke_2006 | 2008-06-17 13:00 | TV・映画・ビデオ
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