さようなら、レイ・ハリーハウゼン
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月給4.5万円のうち、阿佐ヶ谷の貸間に家賃2万円を持っていかれた見習いコピーライター時代、1冊1000円はしただろうか、毎月欠かさず銀座のイエナ洋書店でFamous Monsters of Filmlandを買っていた。
この10月に記念スタチューがリリースされるフォーリー・アッカーマン編集による、いつもうっとりなイラストが表紙の中綴じモンスター映画雑誌。
雑誌というには即時性を欠き、最新映画情報を期待すると足をすくわれる。
それは世界最強のモンスター博士アッカーマンの趣味で構成された古今東西のモンスター映画や俳優やクリエイターたちの記事が勝手気ままに満載の、20代の店主にはいちばん知りたいことが載っている教科書そのものだった。
中でも1975年7月の通算117号(上の画像)を手にした時の感動を、どう言い表したらいいだろう、あまりのうれしさから雑誌を握る手に力がこもり、表紙に折りシワを作ってしまったくらいだ。
もちろんレジに持って行ったのはマガジンラックに残っていた無傷の1冊、55歳の誕生日を迎えた特撮の神様レイ・ハリ−ハウゼンの特集号"55 Candles for Ray"である。
いまでこそ珍しくないが、そこには『原子怪獣現わる』(1953年)のアニメーション・モデルの写真や、『シンドバッド黄金の航海』(1973年)の現場で絵コンテを広げ撮影を見やるハリ−ハウゼンの見たこともないビハンド・ザ・シーンが掲載されて、もはや鳥肌がとまらない。
さらに11ページも割いて日本未公開の『地球へ2千万マイル』(1957年)を紹介し、記事はこんな文章で締めくくられていた。
Don't fail to read the smashing conclusion in the next thrilling issue. (戦慄の次号の最強の結末を読み逃すべからず)。
そう、翌月の118号(下の画像)でさらに20ページも、写真53点を駆使して『地球へ2千万マイル』を特集し、映画を観たような気分にさせてくれたのだ。
たぶん10歳のころ田舎の映画館で『アルゴ探検隊の大冒険』(1963年)を観たのがきっかけだったと思う、レイ・ハリーハウゼンこそは店主が最初に諳んじたハリウッド映画人の名前であり、それから12年後、2冊のFamous Monsters of Filmlandのおかげで憧れの人にぐっと近づくことができたのだった。
ハリーハウゼンはつねに店主の創作のよりどころだった。
1980年代にSFXの著作を何冊か上梓したのも、1990年代に東宝映画『学校の怪談』シリーズでモデル・アニメーションの見せ場を必ず用意したのも、いまこうしてオブジェモチャを商っているのも、心に特撮の神様が住んでいるからに他ならない。
去る5月7日、突然の訃報に接する。
あのハリーハウゼンが少年期からの友人レイ・ブラッドベリーやフォーリー・アッカーマンが待つ天国へと旅立ったのだ。
文字通り神の仲間入りを果たしたというべきか、享年92歳の大往生だった。

Ray Harryhausen. God of my heart. Movie magician of Hollywood who I learned the name first. My deepest condolences.
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by tomenosuke_2006 | 2013-05-09 15:15 | TV・映画・ビデオ
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