グレッグ・ジーン、逝く
Miniature Giant Greg Jein passed away

とても個人的な文章になりますが、留之助商店としてもフレッシュ・ゴードン・ピストルでお世話になったこともあり、彼の名前のタグをたどると28もの記事がヒットするくらい深めの関係ですので黙っていられず。
興味がおありの方はサラッと目を通してください。
とは言っても涙が零れ指が重く、なかなかタイピングが進みません。
こんな状態なので初めに乱筆乱文をお詫びしておきます。



1980年代のLAで親交を深め、帰国後の1991年には仕事で東京に招待し、その後はしばらく下呂温泉の実家にとどまり飛騨高山や能登をいっしょに旅しました。以来、コロナで渡米が難しくなった2019年までほぼ毎年、彼に会い、彼の家の近くの中華食堂でランチをとるのが恒例となっていました。
東京を飛び出し、知り合いの一人もいないLAで暮らし始めた1980年、私の孤独をいちばん察してくれたのが彼でした。LAで知り合った最も古い友人であり、兄貴であり、敬愛する世界一手先が器用なミニチュア・アーティスト、グレッグ・ジーンが亡くなったのです。今年こそは旧交を温められると楽しみにしていたのに、悔しい。享年77歳でした。

グレッグは『未知との遭遇』(1977年)で驚異的に美しいマザーシップや大小様々なUFOから、岩山デビルスタワーや夜のランドスケープまで、一切合切を手作りしました。『1941』(1979年)のジョン・べルーシが乗るP-40トマホークや、トマホークが飛び抜けるクリスマスのハリウッド大通り、さらには大観覧車がサンタモニカピアから太平洋へと転げ落ちるあの壮大なSFXシーンは、すべてグレッグが作ったミニチュアで撮影されました。このころから彼はミニチュア・ジャイアントと呼ばれ、ハリウッド屈指のアーティストとして注目を集めるようになりました。私にとっては『フレッシュ・ゴードン』や『ダーク・スター』(ともに1974年)以来の憧れの人でした。

映画『復活の日』(1980年)で南極を目指す潜水艦のミニチュア製作をグレッグが監修した際、彼と名刺交換したという角川映画の関係者から、ハリウッドに行くならこの人物を訪ねるといいと渡されたのがグレッグの名刺でした。これがすべての始まりでした。

まだEメールも携帯さえない時代のことです。彼の家の留守電にメッセージを残すと、その晩さっそく折り返しの電話があり、翌日には仕事場を訪ねることになりました。フランシス・コッポラが夢中で作っていたミュージカル『ワン・フロム・ザ・ハート』(1982年)撮影中のゾエトロープ・スタジオ内にある、そこは石膏やレジンの粉塵が舞い、シンナーや接着剤の臭いが立ち込める魔法の製造工場でした。
ロケーションを一切行わず、すべての撮影をスタジオ内で完結させるという古き良き時代のハリウッド・スタイルに拘ったコッポラは、スピルバーグの映画で脚光を浴びたグレッグにミニチュア・ラスベガスの建造を委ねていたのです。

コッポラがメガホンをとっているライブアクションの現場を幾度となく見学もしました。ミニチュア撮影のスタジオでは取材のついでに木箱からミニチュアを取り出したり、空いた木箱の片付けなどを手伝ったこともありました。映画や食事に誘われたり、毎月のようにLAのあちこちで開催されるSF系イベントや夏のサンディエゴ・コミコンへもいっしょに出かけました。
私が結婚してからは、我が家で妻の手料理やしゃぶしゃぶを振る舞うことが何度かありました。

会うたびに衰えていく晩年の彼を見て、心細くなることしばしば。1980年代のあのころとまったく同じ不便をそのまま続け、パソコンのない生活でガラケーも家のどこかに放置したまま。連絡をとるにはいまだに家電か手紙(エアメール)を書くしかない人。糖尿病を患いインシュリンを打つようになり、合併症も進んで、最後に(2019年に)会ったときは、まもなく透析が始まると言っていました。

コロナが彼の地を遠ざける一方で、日を追うごと、年を越すたびにグレッグへの思いは強まり、「早く見舞いがてら会いに行きたい」という気持ちが、最近では「生きているうちに、ひと目会っておきたい」と切実に変わり、LA行きを計画していた矢先の悲報でした。

ハリウッドがアナログからデジタルへと変容するうねりの中で、自分流をとおし、手先の割には不器用な生き方が魅力的だった、初めから最後まで絶対変わらず優しかった人よ、安らかに。
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by tomenosuke_2006 | 2022-06-28 23:53 | Sci-Fi Classicモチャ
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