東5F。
エレベーターを出てすぐ正面中央にある“東5F・ナースステーション”をはさんで、右に6人部屋が、左に個室がつづく。
ナースステーションのうしろにはリネン室、男子トイレ、汚物処理室、女子トイレ、浴室、洗面洗濯室が整然とレイアウトされ、リネン室以外は6人部屋側からも個室側からもアクセスできるようになっている。
建物は古いが、機能的。
男子トイレに洋式(車椅子用)がひとつしかないのをのぞけば、入院生活に不便は感じない。
私の部屋は通路のいちばん奥にあるバストイレ付き特別室の手前、洗面洗濯室の斜め向かいにある。
したがってエレベーターを降りて自室へ行くには、ほとんどの個室のまえを通り抜けねばならず、中にはドアが開け放たれた部屋もあり、いやがおうにも室内の様子が目に飛び込んでくる。
東5Fには腎臓内科以外に、耳鼻科、神経内科、放射線科のさまざまな病状の患者が入院生活を送り、全部で61床のベッドに空きはない。
ある個室は、つめかけた家族が老人の横たわるベッドを取り囲み、騒然とした雰囲気に包まれていたが、いまは落ち着きを取り戻した。
ブルーのチューブをつけた別の老人は、身じろぎひとつせず、いつも顔を窓に向けて横たわっている。
果たしてその人は空を見ているのか、それとも目を閉じているのか、私には分からない。
ベッドのかたわらに吊るされた大きな点滴の袋越しに見える夏の空は、黄色い薬液の色と重なって、異様に重苦しい。
ベッドを取り払い、マットレスを2枚、ならべて敷いた部屋もある。
そこには老夫婦がいるのだが、どちらが病人で、どちらが付添なのか、いまだに分からない。
朝、きまって「痛い、痛い」と悲痛な声を上げる人。
からんだ痰(たん)を吐き出そうと、しじゅう洗面所で咳き込む人。
消灯後の暗くなった通路でしか見かけない車椅子の男性。
その人は他界した父と同じ糖尿病の合併症で壊疽(えそ)を患ったのだろう。
左足が膝下からない。

病院で過ごしていると、いままでとは異なる速度でゆっくりと心が働くようになる。
なぜそんなに先を急がねばならなかったのか。
慌てすぎて見落とした事柄、失ったものがあったことに気付かされる。

痩せ衰えた老婦人を車椅子に乗せ、時間はありあまるほどあるからと、毎日、院内を散歩する紳士。
細い腕で夫を支え、便座に腰掛けさせたあと、すみませんといって男子トイレを離れていったその妻は、あきらかに私と同世代だ。
孤独を垣間見、一方で絆の尊さを知る。
ネフローゼ症候群を治すために来た私だったが、退院するころは、少しは心も改善されているかもしれない。
パルス療法の効果はいまだ劇的にはあらわれず、2度目の療法を施すかどうか、明日の尿と血液検査のあと、決められる。
by tomenosuke_2006 | 2006-07-12 23:22 | ネフローゼ症候群
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