スパイモチャ/その3/ナポソロもの
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毎月欠かさずボーイズライフを読んでいた。
さいとうたかをの連載劇画“女王陛下の007号”、怪獣の製作現場を紹介した“ウルトラQの舞台裏”、ハインラインの長編傑作シリーズ“人形つかい”、今月の誌上ロードショー“砲艦サンパブロ”、カラー特集“世界のレーサーカー”、それから、“モンキーズに関する20の知識”に“夏休みガールフレンド作戦”・・・
どの号も、どのページも、くまなく目をとおした。
取り上げられる記事に境界はなく、まさしくバラエティーに富むとはこのことをいうのだと思った。
厚さ2センチ足らずの月刊誌ボーイズライフは知識の宝庫であり、情報の大海原だった。
1960年代少年の大冒険そのものだったのだ。
もしかしたらいちばんの冒険は、巻頭に綴じられた正方形のピンナップ写真だったかもしれない。
白いビキニのナンシー・シナトラ、大きく開いた胸元から豊かな谷間をのぞかせるアン・マーグレット、バーバレラのきわどい衣装を着けたジェーン・フォンダ・・・ドキドキしながら釘付けになった。

1966年のボーイズライフの定番記事といえば、日本ロケされた007は二度死ぬの速報で、毎号かならずボンド俳優ショーン・コネリーの小さな顔写真と007のガンシンボル・ロゴがセットで表紙に印刷されていた。
そしてもうひとつ、1年まえの1965年に終わったバークにまかせろの後続番組として登場するやいなや、圧倒的な盛り上がりをみせていたアメリカのTVシリーズ“0011ナポレオン・ソロ”。
その関連記事が、あるときは主演俳優のインタビュー、また別の号ではスパイ兵器特集といったぐあいに、つねに誌面を賑わしたのだった。
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ソロとイリヤのスーパースパイ・コンビが毎回活躍する0011ナポレオン・ソロ(先のブログのリンク先を参照)。
イギリスのスパイが007なら、こちらはアメリカ代表の0011。
ナポソロは電波にのり、TVアンテナのある場所ならどこにでも現われ、文字通り世界をまたにかけて大活躍した。
いまみれば、低予算のご都合主義と気の抜けたアクションのナポソロだが、ましてや007と比較するのはかわいそうすぎるけれど、007より唯一すぐれている点、とりわけ印象深く、脳裏に刻まれ、いつまでも忘れることのできないモノがあった。
この際だ、ナポソロのシンボルと断言してもいいだろう、彼らスパイの所属する諜報機関U.N.C.L.E.の名をとり命名された銃、P38アンクルタイプである。
短く切り詰めた銃身の先に小さな鳥カゴ状のマズルブレーキを着けたハンドガンと、各種アタッチメントで大きく強化させたカービンタイプの2種類。
M2カービンに赤外線スコープを載せた敵組織スラッシュの専用銃、スラッシュライフルもまた、変身銃の魅力を放っていた。
1960年代スパイモチャのお約束、付け足し育てる変身銃の家元こそ、我らがナポソロだったのである。

アメリカのオモチャメーカー、アイデアルが最初のライセンサーとして、TV放映と同時期の1964年にアンクルカービン(商品名ナポレオン・ソロ・ガン=上の写真)とスラッシュライフル(左下の写真)を含む4種類のプラスチック製キャップガンを発売した。
紙巻き火薬を金属製マガジンに入れ、グリップ下から装填するという作りは4種共通で、しかも同じマガジンがすべてに流用されるという賢い作りだった。
対象年齢は小学生ぐらいか、店主がもし中学生のとき見たとしても、スラッシュライフル以外、親にねだることはなかったと思う。
ベースとなった実銃ワルサーP38からはほど遠く、むしろSF的ともいえる形状は、いまだからこそ愛らしく、物欲を刺激する。
1年遅れて1965年にはイギリスのローンスターからも、アンクルタイプが出た。
こちらは同社がすでに発売していた3分の2サイズのダイキャスト製キャップガンのモーゼルに、U.N.C.L.E.のロゴをあしらったもの。
サイレンサーとホルスターの3点セットのほか、豪華アタッチメントをアタッシュケースに収めたカービン・タイプが、おもにヨーロッパで売られた。
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アンクルタイプと呼ぶには貧弱な子供仕様の外国製ナポソロ・ガンとは、あきらかに一線を画するハイエンドなヤツが、ちょうどいまから40年前の1966年、東京上野で産声を上げた。
いまだにヤフオクにかかると、激しい争奪戦が繰り広げられるファン垂涎の品。
モデルガンメーカーのパイオニア、MGCのP38アンクルタイプ(右上のチラシと下の写真の右側)である。
ボーイズライフにも広告が載った。
マテルのスパイモチャやスナッブノーズにはじまり、ついにはMGCのモデルガンでオモチャ遊びの最前線にいた少年時代の店主にとって、それはトドメの何ものでもなかった。
モデルガンの売りでもあった“リアル”とは微妙に異なる、夢と遊びのメカニズムで動くオートマチック・ピストル。
当時、ステージガンという言葉を知っていたら、もうそれだけで気持ちの整理がついただろう別格のモデルガン、それがMGCのアンクルタイプだったのだ。
猫も杓子も同じ黒革なのが気にくわないと、あるとき茶色のアタッシュケースに替えた父からお古をもらい、アンクルタイプがきれいに収納できるよう改造して、遊んだ。
アタッシュケースから取り出し、組立てたり、分解したり、また組立てたり。
あまりイジりすぎて、スコープマウントを取り付けるネジ山を潰してしまい、泣いた。
MGCのライバル、中田商店からもアンクルタイプ(下の写真の左側)が出た。
こちらはオリジナルにはない(アイデアルのカービンにはあった)ビポッドが用意された。
プラスチック製のグリップに鉄の重いストックを着けると、ギシギシきしむイヤ〜な音がして、取り回しには十分気をつけねばならなかった。
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毎週、欠かさず観ていたナポソロだったけれど、前後編からなるいくつかのエピソードはTV放映されないまま劇場版として公開されたために、未見のままだった。
1965年の映画“0011ナポレオン・ソロ/消された顔”もそのひとつで、最近やっと機会を得て、噂どうりだったことを確認したのである。
映画がはじまってすぐ、イリアが2台の小型ロボットに襲われアンクルタイプで反撃するシーン。
じつはそのロボットこそ、構造がやっかい過ぎて小学生の店主には完成できなかった懐かしのプラモ、ビッグサンダーボーイの原形となったロボットコマンドだったのだ。
赤い頭と青のからだがカラフルポップなロボットモチャの代表選手(当店サイトのトップに登場)。
ナポソロのライセンサー、アイデアルの大ヒット商品だったばかりか、それは1960年代のアメリカ少年たちを熱狂させたオッキモチャ・ブームの火付け役でもあった。
スパイモチャからオッキモチャへ、店主の玩具道は果てしなく続くのである。



アンクルタイプ大行進!

●ナポレオン・ソロ・ガンとホルスターのセット/アイデアル/1964年
硬質ビニールの大きなホルスターは、スパイ用というよりはスペースソルジャー風。
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●カービンタイプのナポレオン・ソロ・ガン/アイデアル/1964年
材質がプラだから割れたり、欠けたりが多く、こんなにミントなのは珍しい。ビポッドだけが金属製でロングバレルには磁石でくっつく仕組み。
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●スラッシュライフル/アイデアル/1964年
スコープをのぞくと標的のシルエットが見え隠れするギミック付き。存在感のある大きさがいい。
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●イリヤ・クリヤキン・ガン/アイデアル/1964年
ソロの相棒、イリヤの専用銃。スラッシュライフルの前と上と後ろを切り取ったら、こうなりました。
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●アンクルガン/ローンスター/1965年
U.N.C.L.E.ロゴを入れたダイキャスト製3分の2スケールのモーゼルに、革のホルスターとプラスチックのサイレンサーを付けて、おもにヨーロッパで売られた。
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●とっても怪しいアンクルタイプ/メーカー・製造年不詳の香港製
オールプラスチックのアンクルタイプで、いい味出てる。スコープは明らかにMGCのものをリキャストしたと思われる。詳細をご存知の方はコメントください。
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●P38アンクルタイプとサイレンサー/中田商店/1966年
MGCがアンクルタイプを発表すると同時に中田も出した。この年、まだカービンのセットは間に合わず、マズルブレーキ(銃身に装着)と専用のナポレオン・ソロ・サイレンサー(中央)が急きょ発売された。このサイレンサー、じつはものすごくよく出来ている。(写真は参考資料で、留之助商店の取扱商品ではありません)
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●東京上野対決! NAKATA VS.MGC
少年時代はMGCのカタログやチラシの洗脳記事のおかげで、けっこう中田商店のモデルガンをバカにしていたけれど、いまではただただ懐かしく、遠くにありて思うのみ。(写真は参考資料で、留之助商店の取扱商品ではありません)
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ちなみにここに掲載のモデルガン以外のスパイモチャは、すべて留之助商店で販売予定です。
by tomenosuke_2006 | 2006-07-24 18:47 | ムカシモチャ
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