ドキュメント・きょう。
7月25日、午前3時半、起床。
というか、いつもこの時間にいったん目覚め、しばらく読みかけの本を広げたり、ノートブックで遊んだりして、また寝ることもあれば、そのまま昼ごろまで起きていることもある。
決めといえば時間どおりに運ばれてくる3度の食事ぐらいで、あとの時間割は全マス自習といった感じ。
人に迷惑をかけず、自分をいじめなければ、何をしてもいい。
したいことをして(といっても院内でできることには限度がある)、寝たいときに寝るという生活を続けているから、3時半の起床はべつだん早起きというわけでもなければ、服用しているステロイド剤が誘発するらしい神経の昂ぶりが原因でもない。
自然の成り行きなのだ。
けさは、しかし早くから忙しかった。
昨夜、ヤフオクで落札したふたつの品物のうちのひとつ、こまめにメールをくれる出品者から元払送料と振込先を知らせるメールが、もう届いていたから。
さっさと希望落札価格で落とさないと、途中で出品取消しにあったかもしれない40年前のトイガンで、こういう訳ありの品物は迅速に処理するに限る。
ジャパンネットバンクから送金完了。
そしてもうひとつ、これがやっかいだった。
今回がヤフオクはじめてという在日アメリカ人の出品者から、未使用のiBookG4/12inch最終モデルを破格で落札したまではよかったけれど、何を勘違いしたのか落札後に出品を取り消してきた。
結果、私が落札をキャンセルしたことになり、自動メッセージでマイナス評価がつけられた。
ヤフオク6年で築いた850に達しようとするプラス評価に、これが最初の汚点「非常に悪い」の烙印が押されてしまったのだ。
およそ6日間、暇にまかせて虎視眈々と狙ってきた文字通りの掘り出し物だった。
出品者が新規だということに加え、たどたどしい日本語による商品説明を読んで、多くの人たちがリスクを感じたのだろう。
私以外の入札は1件もなかった。
終了日時が月曜日の午後2時40分というのも、競争率を低下させる要因だったかもしれない。
場合によっては英語でやりとりすればいいし、馬鹿正直に公開プロフィールをくまなく記入して、顔写真まで添付しているところを見れば、悪人でもなさそうだ。
私的には以上の理由で首尾よく落札したつもりだったのだが。

午前5時半、採血。
看護師さんが採血におとずれ、専用容器に取り分けておいた朝いちばんの尿を引き取っていく。
私がいる東5Fには介護を要する年老いた患者が多く、とくに看護師の少ない朝、食事の世話にはかなりの時間と労力がさかれるらしい。
だから忙しくなるまえにできることは済ませておきたいという理由で、いつも採血は早朝と決まっていた。
おととい下呂市の家に1泊した朝、尿意が減速して意地悪な浮腫みがぶり返してきたけれど、日曜の夕食前に病院へ戻り、落ち着くと、はじまった。
瀑布のごとき奔流。
日曜日の夕方から月曜日の朝にいたるおよそ12時間で900cc。
その後の24時間、つまりついさっきまでで畜尿ビンは夢の満杯、2000ccを記録した。
浮腫みはみるみる退いていき、パルス療法の効果を強く実感する。
あとは血中のタンパク質=アルブミンの量と尿タンパクのそれぞれの数値が、どれだけ正常値に近づいてくれるか、なのだ。
看護師さんが持ち帰った血と尿が、いずれ教えてくれる。

午前7時半、朝食。
配膳まえ、看護師さんがまずお茶を注ぎに各部屋をまわる。
浮腫みがひどかったころ、まる1日かけて、マグカップ1杯のお茶を恐る恐る飲んでいた。
が、いまは脱水症状になるのではと思えるほどの排出量で、水分を補給しないとからだが干上がってしまいそうだ。
いつもの味気ない簡素な食事が、TV台から引き出された小さなテーブルの上に置かれる。
これで健康が取り戻せるなら、塩やタンパク質など永遠に悪魔にくれてやる。
メールの受信を知らせるビープ音がノートブックから聞こえてきた。
例のアメリカ人からだった。
なんで、落札キャンセルしたかと聞いてきた。
まるで分かっちゃいない。
昼に電話がほしいと、ケータイ番号が記されていた。

午前9時半、回診。
頼りなげなところがかわいい研修医の新之介先生が、思い詰めた面持ちであらわれた。
私の部屋をたずねるたび、いつも問われる腎生検の結果が、どちらかというと喜ばしくない結果が、やっと出たにちがいない。
それをどう報告しようものか気持ちの整理がつかないまま私と対面したために、表情は困惑の色をにじませることに?
膜性腎症(まくせいじんしょう)。
ネフローゼ症候群の数ある原因のうちでも、ワーストではないものの、けっして軽くはない腎炎。
昼まえに出る血液検査と午後に出る尿検査の結果を踏まえ、夕方までには主治医の小田先生から詳しい報告と今後の治療について説明があるといわれた。
もちろん、ネットでチェック。
なるほど、たんぱく尿の出現や回復を繰り返しながら、長い経過をたどることが多く、腎不全への移行は一般に少ない、か。
ステロイドの反応性は緩徐とも。
うきうきするようなフレーズはどこにも見当たらず、夏だし、気分転換に持参したDVDのサンダーボール作戦を観ることにした。
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午前11時 入浴。
サンダーボール作戦が私的には限界だな。
クロディーヌ・オージェがいかにゴージャスでも、007シリーズが私の期待とは逆の方向・・・スパイ戦がとうとう団体戦となって荒唐無稽な空騒ぎ・・・へと暴走するのを許す理由にはならない。
シャワーを頭から浴びながらバハマの海をわたる自分を空想したら、鼻孔から水を吸い、溺れかけて悲しくなった。
浴室の鏡に自分を映す。
なんとスッキリ痩せたことだろう。
詰め所のまえにある体重計にのる。
昨夜から2キロ、けさからでも1キロ弱減って、現在61キロ、入院時から9キロも痩せていた。
正確にはにっくき水が抜けたわけで、まずはからだが軽く楽になったことを心から喜ぶことにしよう。
入院まえの私を知る人には、やつれたと映るのだろうか。

午後1時、数値。
昼食をとりながら、アメリカ人と話をした。
iBookは買うことにして、あとはぜんぶまとめて許す。
あーだこーだやってる暇があるなら、ほかにすることあるでしょ、である。
待望の血液検査の結果を看護師さんが届けてくれた。
血中アルブミンは1.7g/dl・・・つまり、入院した日と同じままじゃねぇか。
何も改善されていない。
密かに夢見てた月末の退院は、アルブミンの数値とともに露と消えた?
しばらくして新之介先生がたずねてきた。
まだ若い、嘘がつけそうもない真っ正直な彼の顔に同情の色を見て、一瞬、明るく振る舞う術を見失う。
小田先生に会うまでの数時間を、どう過ごしたらいいのだろう。
by tomenosuke_2006 | 2006-07-25 23:51 | ネフローゼ症候群
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