好奇心でいっぱいの少年が己の知識や空想をはるかに超えた場面に出くわし、かつてない熱狂を経験したら、それはもう一生忘れがたいものになる。
場合によっては、その後の人生が大きくカーブして、あっちへ行っちゃうこともあるだろう。 45年前、NHK-TVで観た白黒映画キング・コング(去年公開されたピーター・ジャクソン版の元祖)が、店主にとってはあっちへ行っちゃう決定的な出来事となった。 南洋の孤島の奥深くに広がる有史前そのままの世界に恐竜たちの勇姿を見たとき、幼い心に何か不思議な力がはたらいて、結果いまの自分が作られたような気がする。 映画を愛し、SFやファンタジーに憧れ、ハリウッドでSFXを追いかけ回したのは、キング・コングの体験があったからだった。 極言すれば、こうしてオモチャ屋の主になった(なれた)のも、キング・コングのせい(おかげ)である。 長いあいだ店主は、映画の中で猛威をふるう恐竜たちを楽しんできた。 とくにキング・コングと同じSFX=モデルアニメで動く恐竜が好きだった。 コマ撮りされた恐竜のギクシャクした動きが断続的な夢そのもののように思え、むかしテレビに見入った少年のころの気分がよみがえる。 図鑑で恐竜の種類や生態を知っても、博物館で骨格化石を見上げても、なかなかそうはいかない。 店主にとって恐竜とは、人間相手に大暴れする映画の中の手に負えない怪物のこと。 ウィリス・オブライエン(キング・コング/1933)、レイ・ハリーハウゼン(恐竜100万年/1966)、ジム・ダンフォース(恐竜時代/1969)、デイヴィッド・アレン(おかしなおかしな石器人/1981)たちSFXのパイオニアにして天才モデルアニメーターが、神に代わって生を授けた実際は30センチ足らずのゴムの人形をさすのである。 店主はそういう昔かたぎで偏屈な恐竜好きだから、最新の古生物学など重要視しない。 そりゃ確かに映画ジュラシック・パークの尻尾を水平に立て、前かがみの攻撃姿勢で二足歩行するT-rexはカッコいいけれど、やはり店主好みのT君は太い尻尾をドタッと地面に下ろした異様にでかいツラの持ち主でなければならない。 旧式の古生物学による間違った解釈の恐竜、忘れられた大型爬虫類、過ぎ去りし日の銀幕を往来した実態はゴムの人形。 それをいま思い起こさせてくれるオモチャといえば、もはやシンクレア恐竜だけなのだ。 当店入り口を入ってすぐ右のガラスケースの上の段に、古臭い恐竜が群をなしている。 (ちなみに下の段にはオッキモチャのキンザーがいる) これこそ我が心の恐竜たち。 1964〜65年のニューヨークで開催された万博の中でも、とりわけ子供たちの人気をさらったテーマ館“シンクレア・ダイナランド(恐竜庭園)”で、来場記念に配られたビニール製オモチャなのである。 カラフルで、かわいい。 T君で高さ20センチ弱、小さ過ぎず、手ごろなサイズが、またよい。 シンクレアとは1916年に創業したエンジンオイルの老舗メーカーのこと。 1930年代に首長竜ブロントザウルス(いまはアパトサウルスという)をトレードマークにあしらい、1950年代のある時期にはオイル交換した人にブロントザウルスの貯金箱をプレゼントした。 その貯金箱にはプラスチック製と金属製の2種類あり、高級オイルを注文するとかわりに金属製の置物風ブロントザウルスがもらえた。 そんな恐竜マニアのシンクレアが満を持して公開したのが、原寸大の恐竜をならべたニューヨーク万博の恐竜庭園だったというわけだ。 当店は自慢じゃないが、だれも興味を示そうにないけれど、50年代の貯金箱から60年代の恐竜庭園版まで全種類、在庫している。 だけではない、下の写真を見よ。 大き過ぎてお店に持ち込めないため、いまも下呂市の別荘で飼っている1950年代のブロントザウルス(FOR SALE)もいる。 これは当時のガソリンスタンドの片隅に置かれていたPOP兼子供用遊具。 たまに店主、こいつにまたがってお茶したりする。 けっこう、なごむ。 1960年代のNY万博へ、ほんの少しタイムスリップしてみましょうか。 シンクレア恐竜庭園で配られた入場記念パンフレットや当時の報道写真を引用させていただきます。 ↑ 入場記念パンフレットから、恐竜庭園の全景イメージです。 ↑ 同じくパンフレットから、ブロントザウルスの製作風景です。シンクレアの恐竜庭園はエール大学ピーボディー博物館のジョン・アストラム教授率いる一大プロジェクトで、当時としては最新の古生物学に基づいてました。 ↑ 恐竜はトレーラーに載せられて会場をパレードしました。 福井県の恐竜博物館の東洋一理学博士とお話させていただいたときか、または何かの本を読んで感銘したときだったか、恐竜こそは地球と生命について考えるためのパラダイムではないかと思ったことがある。そのことを以前、短い文章にまとめたのだけれど、ちょっと面白いからここに再録しておく。 地球50億年の歴史を1年365日のカレンダーにたとえ、地球誕生の日を1月1日とするなら、44億年後、つまり11月の半ばにやっと生命らしきものが海水中に育ち、進化を繰り返して11月末に陸に上がったことになる。 恐竜の時代はいまから2億年前にはじまり1億6500万年間も続いたというから、12月15日から26日まで。 それに対し人類が登場したのはほんの200万年前、12月31日の午後8時半ごろで、土器の生活を始めたのが11時59分。 なんと最後の1分間のうちに今日の繁栄と、ついでに環境破壊やら何やら、山ほどの問題を抱えることになってしまった。 地球史的にみれば新参者でしかない人間は、陸の王者として君臨した恐竜が、ある日、忽然と姿を消したことについて、もう少し考えてもいいのではないか。 人間にも絶滅の日がおとずれないともかぎらない。 こんな言葉を使うのは照れくさいけれど、地球にもっとやさしくあるべきなのに、人間は自然を限りなく酷使している。 もしかしたら人間は恐竜やその他の野生のように自然淘汰されることを恐れるあまり、自然に対して従順でないばかりか、歯向かおうとする因子を秘めているのかもしれない。 自然のまえで無力であることを認めたくないばかりに自然を苛め、文明という一瞬の安堵を手に入れたのかもしれない。 シンクレアの、のほほんとした恐竜たちを見ていたら、いろいろ考えさせられました。 恐竜パレードの写真はいかがですか? 人間の愚かさを嘲笑うかのように、悠然とそびえて見えませんか? いまの超リアルな復元恐竜よりも、味があると思いませんか? 以上です。
by tomenosuke_2006
| 2006-10-23 21:20
| ムカシモチャ
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