ハリウッドがある南カリフォルニア最大の都市ロサンゼルス、通称LA(エルエイ)。
1985年の暮れに帰国してからは、年に1度、ムリヤリ用事をこしらえては10日前後の日程で出かけていたけれど、1990年の秋から翌年の春にいたるおよそ7カ月間、仕事でひさしぶりに長期滞在することになった。 東京新聞主催の映画のイベントを仕込むため、ハリウッドの街を抜けたすぐ先、ワーナーブラザーズ・ストゥディオ近くの長期滞在者向け家具付アパートメントオークウッド・トルカ・ヒルズ(下の写真)に腰を据え、LAの懐かしいテンポの中で生活を再開した。 かつての悪友はいっぱしの大人になり、通りは様相を変え、いきつけだったタイ料理屋は無愛想なオーナーに代わって味も落ちていた。 仕事はそんな10年間で培った人脈や情報を頼りに進められ、一方で色褪せた青春の記憶をたどる予定のない旅を経験することになったのだった。 あのPIXが忽然と姿を消したように、愛着さえ感じていた古い建物のいくつかが危急存亡の秋(とき)をむかえているのを知り、見納めるならいましかないと思いたち、時間を見つけてはLAじゅうを駆け巡った。 土地効率が悪い平屋の建物だという理由で都市化のいけにえにされることになった馴染のカーウォッシュやコーヒーショップ、スクリーンがひとつしかない映画館など。 その年、1990年はショッピングモールの建築ラッシュとシネマコンプレックスの台頭で、LAがじつにコンビニエンスになる反面、街の味(アイデンティティというのかな)や人との触れ合いが希薄になっていく節目の年だったのだ。 ヴェンチュラ・ブールバード沿いのストゥディオシティ・シアターはもうじき取り壊されて大型の本屋になることが決まっていたし、ラレイナ・シアターのまえでは解体反対の署名運動をする人の姿が見受けられた。 大きなもの、かさばるものは産業廃棄物として処理され、目ぼしい装飾品や使えそうな備品だけがゆかりのアンティック・ショップやスリフト・ショップ(古道具や古着などの中古品専門店)に払い下げられるらしい。 ごく稀にネオンサインが売りに出されることもあるけれど、それを買い取りしかるべき場所へ移送し、修理代を注ぎ込んで転売するようなバイヤーやアンティック・ディーラーはなかなかいない。 かつてその美しさで一世を風靡したとはいえ、壊れやすいネオンは、とりわけ大きなものは厄介者扱いされて、レンガやコンクリートといっしょに瓦礫の山の一部と化す運命にあるのだ。 たとえばいまもバーストゥの街でひとつ、ネオンを多用したロードサインが売りに出されているけれど、いつまでもそこにあるとは限らない。 このままだとジャンクヤード行きになるのがオチだ。 デニスの話では、それはドライブインの入り口に掲げられていた長さ23フィート(7メートル)、高さ4フィート(1.2メートル)の細長い形状の金属製で、いまは3つに分解されて近所のガレージに置いてある。 モハーベ砂漠の山並みを背景に、馬にまたがったカーボーイがバッファローを追う姿がネオンで描かれ、うまく修理すればアニメーションのように動いてカーボーイの投げ縄がバッファローの首を捕らえる様子が再現できるんだとか。 抑えきれないもの、うまく説明のつかない感情、強いて言えば古き良き時代のアメリカの断片をとっておきたいという欲求なのか、ネオンを救いたいと強く思う気持ちが心の底から沸き上がってきた。 数日後、デニスとともにサンバーナーディーノ・フリーウェイを東に延々と3時間以上進み、ネオンがあるというバーストゥ目指して支線に下りたった。 通りにはルート66のサイン。 シカゴとLAを結ぶ大陸横断道路として1920年代に着工され、30年代には全線が舗装されてアメリカ最大の幹線道路となったけれど、1985年、州間高速道フリーウェイの完成にともないその使命を終えて廃線となり、地図からも消えた道。 そのルート66沿いのひなびた自動車修理工場の奥で、例のネオンサインがホコリをかぶり我々の到来を待ち受けていた。 困ったことに店主、己の美意識に叶う変で普通でないものとの出会いには、偶然や困難が重なれば重なるだけ特別な運命を感じてしまう性癖の持ち主なのだ。 ・・・懐具合もかえりみず。 つづく。
by tomenosuke_2006
| 2006-11-08 16:55
| ムカシモチャ
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