2006年11月2日と2006年11月8日の記事で書いたネオン集めの話、放ったらかしにしていたことを思い出した。
で、そのつづき。 1990年、ルート66沿いの自動車修理工場の奥で出会ったネオンサインは、錆びて朽ち、ネオン管は3割がたなくなっていた。 長年の役目を終え、いまは力尽きて横たわる老人のように見えた。 これを売りたいという人物は1951年から同じ道路沿いでステーキ・レストランを営んできたファミリーの三代目で、店主や同行のアンティック・ディーラーの友人デニス・ボーゼスと同世代(当時30代後半)の男性だった。 大型トレーラーが何台も収容できる大きな駐車場の入り口、通りに対して直角に建てられた鉄骨の台座の上で、長いあいだ、それは名物ロードサインとして道行く人たちの視線を浴びてきた。 けれど1980年代の終りに店をたたむことになり、何度か入れ替えられた家具や調理器具などとはちがい、祖父の代からずっとあったこれだけは棄てられないでいたという。 壊れてホコリをかぶったネオンサインに、元気だったころの姿がオーバーラップする。 バッファローを追うカーボーイ。 投げ縄が放たれ、バッファローの首めがけて飛んでいく。 プレスリー、ビートルズ、ボブ・ディラン、ママス・アンド・パパス、イーグルスたちのBGMが聴こえてくる。 カーボーイ・ネオン史・・・店主の興味に、けれど三代目はあまり時間がないという理由で応えてはくれなかった。 40年間続いた店を、たとえ世情の変化とはいえ、自分の代で終わらせねばならなかった不運と、先人に対するきまりの悪さが入り交じっていたのかもしれない、彼はクールを演じるのに懸命なようだった。 商談はデニスがまとめた。 3分割されたカーボーイ・ネオンは乗ってきたロングボディのピックアップ・トラックにぴったり納まり、その日の夕方にはLAのピコ通りにあるネオンサイン専門の小さな工房に運び込むことができた。 ほとんどのネオンサインは、通りのどちらから見てもいいように両面に同じ絵柄が描かれている。 デニスの腹積もりでは、両面を完全にレストアして3万ドルで売るより、それを真っぷたつにスライスして同じものをふたつ作り、片面でいいという人ふたりに2万ドルずつで売った方が、買い手は1万ドル節約できるし、自分は1万ドル余分に稼げる。 確かに名案で、いまさら高価な両面仕立てのネオンを買って実際に屋外で使おうなんていう人はめったにない。 店主以外にもこんな大きなネオン(長さ23フィート=7メートル)を欲しいと思う物好きがいたとして、コレクションしたり、飾るなら、片面で十分なはずだ。 ただしこのカーボーイ・ネオンに限っていえばデニスの計画は空振りに終わった。 あまりの傷みように、片面の絵は大半がはがれ落ち、もしこれを使ってふたつにしようとするなら、ひとつは絵を複製しなくてはならない。 ビンテージ・ネオンの価値は、割れやすいネオン管のコンディションではない。 ネオン管はオリジナルと寸分たがわぬ素材で、まったく同じ色に再生が可能。 むしろ本物と偽物、ビンテージとレプリカの違いはネオン管そのものではなく、その下の看板部分にある。 つまり、絵。 有名なアーティストが描き残したわけではないけれど、名も無き絵にこそ価値がある。 カーボーイ・ネオンは看板の絵がペンキで手描きされ、日に焼けて薄くなると、頃合いを見計らって塗り替えられるという人生を送ってきたように推察された。 生き延びた側の絵は、そのまま使われていたらまもなく修正されただろう白茶けた、ゆえに郷愁に満ち満ちて映った。 絵を保護したければ表面を琺瑯(ほうろう)加工する手もあったが、大がかりな手順と相当な費用を要する。 個人経営の施設に琺瑯引きの大型ネオンが使われることなど、まずない話だった。 カーボーイ・ネオンは1950年代のはじめ、ステーキ・レストランを興した初代オーナーが資金をやりくりし、地元の看板屋と語らいながら作ったにちがいなかった。 名も無き絵はネオンの光を受けて、さらに際立って見えた。 点滅を制御するドラムの回転音と、ドラムに取付けられたピンにスイッチ板が接触したとき発せられるバチッという電気音、そこへネオン管の中を電気が泳ぐ放電音が重なって、まるで生き物の鼓動のように、音楽を奏でてるようにさえ聴こえた。 達成感に、胸が熱くなった。 病みつきになるのが分かった。 この時から10年、毎年ひとつ、最高のネオンサインを見つけては、LAの日通に借りた倉庫に運び込むことになる。 一度も乗ることのない2000ccクラスのクルマを毎年1台、買うようなものだと、誰かに笑われた。 まだ、つづきそう。
by tomenosuke_2006
| 2007-01-14 23:57
| ムカシモチャ
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