さらばパトリック・マクグーハン。
タイトなスーツがすっきり似合う秘密諜報部員ジョン・ドレイクとは、小学生の時に出会った。
0011ナポレオン・ソロが架空の秘密結社やマッドサイエンティストを相手に闘うのとちがい、NATO所属のジョン・ドレイクは西側のために働いていた。
東西スパイ戦の只中で裏切りや二重スパイの非情な罠に巻き込まれ、つねに頭脳の勝利をおさめる。
原題はDanger Man(アメリカ放映タイトルはSecret Agent、日本題名は『秘密指令』のちに『秘密諜報部員ジョン・ドレイク』)、軽快なオープニング・テーマはいまでも口ずさむことができる。
ジョン・ドレイクを演じたのは30代半ばのイギリス紳士パトリック・マクグーハン、番組の成功で1960年代イギリスTV界きっての大スターとなった。
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しかし彼が希代のクリエイターと称賛されたのは『秘密諜報部員ジョン・ドレイク』の放送が終わり、自らの企画・主演(ときには脚本や監督も担当)による新番組『プリズナーNo.6』が放送された1968年のことである。
当時中学3年の店主にはカフカ的不条理に満ちたTV番組を理解できるほどの知恵はなく、ただただ不思議をあんぐり面白がるだけ。
『プリズナーNo.6』を解明するのに10年あまりを要しただろうか、核心に迫ったのは25才の頃、その思いの丈をSF雑誌奇想天外の連載『新主流派SF映画作家論』に書き綴ったのだった、でも恥文。
現代社会の非人間化、個人的自由の喪失、国家的意志に対する個人の服従といったSFの主題でもある社会の中に実在する真の危機を寓話のかたちを借りて描いた傑作である、とかなんとか書いたような。
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当時、1970年代の終わりといえば、ハリウッドに移り住んだマクグーハンが『刑事コロンボ』の主演俳優ピーター・フォークと意気投合して、そのTVシリーズにゲスト出演したり何度か監督をこなし、クリント・イーストウッド主演の『アルカトラズからの脱出』では『プリズナーNo.6』とまったく逆の立場の冷徹な刑務所長を演じて、ファンにはまだまだ楽しみの尽きない時代だった。
さらに店主がLAに住み始めた1981年には、デイヴィッド・クローネンバーグ監督の『スキャナーズ』で威風辺りを払うマクグーハンとスクリーン越しの再会を果たした。
そのクローネンバーグ監督へのインタビューをセットアップしてくれたパブリシストにマクグーハンと直に会えないものかと打診すると病気療養中だと教えられ、監督に現場でのマクグーハンのことを尋ねるとアルコールに強く依存し、撮影がいささか難航したと聞かされた。
しばらくたって盟友ピーター・フォークの『新・刑事コロンボ』で監督のほか、ときには共演、製作総指揮、脚本もこなしたが、その後はほとんど彼の名前を聞くことはなかった。
晩年は長年連れ添った妻や娘や孫たちと幸福な引退生活を送っていたとか。
2009年1月13日、入院先のサンタモニカの病院で静かに息を引き取ったことを新聞で知り、ふといろんなことに思いを馳せてみたのだった。
享年86歳。
パトリック・マクグーハンの出世作『秘密諜報部員ジョン・ドレイク』は、アメリカで原題のDanger ManがSecret Agentに改題されたと先述したが、その際、ジョニー・リバースが歌うSecret Agent Manというテーマ曲が新たに作られて世界中で大ヒットした。
それを彼の葬送曲としたい。


by tomenosuke_2006 | 2009-01-18 17:17 | TV・映画・ビデオ
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